鹿沼市の城13「下沢城(鹿沼市下沢)」
鹿沼は城の宝庫である。
第13回目は、鹿沼市下沢の“下沢城”を紹介したい。
この城の良い点は、第12回の“上の城”と違い、城跡がきちんとしたハイキングコース上に在るところだ。
人知れぬ山城の調査に行くと、獣に襲われたり、誤って崖から転落した場合、一体どうしたものだろう、と思う時がある。
誰にも気づかれず、行方知れずとして一生を終えてしまうのではないかと、不安を抱きながら調査を行う事が常である。
それに対し下沢城は、二股山(標高569.6m)登頂の経路となっており、ハイカーの数も多く、人の目が多い点で安心して訪れられる。
コースについては、地元の雑誌、山岳サイトなどで紹介されているので参照されたい。※1
ハイキングコースとだけあって、駐車スペース、登山道、道標、全て申し分ない。
また、地元の方だろうか、遺構の解説看板も随所に立てられていて親切である。
しかし看板の中身は、訪れるハイカー達にはあまり理解できていないようだ。
筆者の見学時も、何人かのハイカーに声をかけられ、遺構について話をしたが、
「あなたのような人に直接説明していただけないと、良くわからないねぇ。」
と言われてしまった。
■図1-下沢城縄張り図
■図2-下沢城復元想像図
そんな下沢城であるが、標高368mの山頂を中心に遺構が広がっている。
主郭(本丸)に該当する曲輪(大抵は人が平に均し、生活や軍事活動をする平地)は、ほぼ自然地形と言って良く、あまり加工されていないようだ。
ハイキングコースに沿う主郭東側の斜面や尾根は、岩盤上にあって極めて険しい。
このため、城として堀切(堀切=尾根を断ち切るように配置する堀)などの加工は施されていない。
その代わり、峰続きの西側には、広い範囲で遺構が広がっている。
■図3&写真1-主郭にあがる土橋
まず、紹介したいのが、図3&写真1の主郭西側にある堀切と土橋である。
(土橋=土を削り残し、橋のように堀対岸を繋げるもの)
主郭に西側から上がれるように、土橋がスロープ状となっており、両脇に堀切を施している。
この堀が、城の中では一番しっかりしていて、厳重さが感じられる。写真2
■写真2-主郭土橋脇の堀切
さらに足を西に進めると、ちょうど主郭部から南西にハイキングコースが折れて、下降し始めるところに、写真3のような「石垣」の看板が立っている。
しかし、この山は元々岩が多いところもあり、現地を見る限り、筆者には人工的な石垣の匂いがしなかった。
■写真3-果たして石垣だろうか?
■写真4-不動岩
ここからさらに西に進むと、二本の堀切を経て、通称“不動岩”と呼ばれる巨石に達する。写真4
堂々とした天然岩であり、圧巻である。
しかし城として、どのように利用していたかはわからない。
ちょうど城の鞍部、峠に位置するところから、下から登ってきた敵を迎撃するために使われていたとも考えられる。
さて、不動岩から西側は斜面が再び上り始める。
下沢城の遺構は、不動岩で終結したようにも見えるが、実はさらに続いている。
不動岩の西を登り切ると、小ピークが現れる。
頂上部に、曲輪と薄い堀切の跡が残っている。
そこからさらに進んだ図4&写真5が、下沢城最西の堀切となる。
深い堀切ではないが、明らかにここまでが城域であった事を示すものだ。
現状、堀切は北方面だけ、長い竪堀に変化している。(竪堀=山の斜面を下る堀。敵の斜面の横移動を防ぐ防御施設)
■図4&写真5
ところで、下沢城には、山麓にも平地の城が残っている。
文末の位置図で「居館部」と示した場所である。
土塁の一部が残るが、山上の下沢城とセットと考えたい。
一般的にこのような城のパターンは、通常は麓の城に居て、有事の際は山上の下沢城に篭って対戦する、などと言われるが、普段から山の上には、物見等の警備をしていた人たちが居たと考えられる。
下沢城の歴史は明らかではない。
しかし、下沢城の麓を走る県道14号を北上すれば、第2回の龍階城、第10回の金ケ沢城である。
南下すれば第4回の加園城がある。
位置的に見ると、これらの城々は、お互いに関わりがあったようにしか思えない。
ふたたび不思議な城に出会ってしまった。
彼らは必要だから築かれているはずなのに、なぜか人々の記憶から消えている場合が多い。
このような城の築城目的を探る事は、城調査の醍醐味でもある。
はっきりとした答えは未だ見つけられないが、今後も思いを巡らせていきたいと思う。
鹿沼の城は本当に素晴らしい。
────以上────
◆城の位置図(国土地理院地図より)
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※1 栃木百名山 ガイドブック 改訂新版 栃木県山岳連盟監修 下野新聞社
2013年 など参考にされると良い
※ 筆者は城に関するホームページを開設している。
乱暴なホームページではあるが、興味のある方は是非ご覧いただきたい。
ホームページ名 埼玉県/栃木県の中世城郭
URL: http://saichu.sakura.ne.jp/
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<編集部より>
本コラムは、趣味として長年、城の構造(縄張り)を調査している縄張りくんが、
鹿沼市の魅力の一つとして、市内の縄張りを紹介してくれています。
あくまで、縄張りくん個人の見解に基づくものですので、ご承知おきください。
ライター 縄張りくん