鹿沼の人、文化、自然を表現 いせひでこさんの絵本『まつり』
絵本作家・いせひでこさんの『まつり』(講談社、2010年)は、鹿沼に生きる人たちや彫刻屋台、木々の美しさを描いた作品です。
いせさんは、鹿沼市の「かぬまふるさと大使」に委嘱されていて、『まつり』は『大きな木のような人』(いせひでこ作、講談社、2009年)の続編にあたります。
(写真1)いせひでこさんの絵本『まつり』(講談社)
〔ストーリー〕
庭師の孫のさえらは、草花が好きな子ども。
ある日、さえら宛に、前作『大きな木のような人』でさえらと親交を持ったフランスの植物学者「木の先生」から、「秋には日本をたずねられそうです」と手紙が届きます。
「木の先生」が日本に到着したころ、さえらの住む町は、ちょうど「ちんじゅの森のおまつり」に向けて準備の最中です。
さえらは「木の先生」を連れて、彫刻屋台を組み立てる人たちや車大工の職人、お囃子や手古舞の子どもたちのもとを訪れ交流していきます。
作品の「内容紹介」によると、いせさんは何かに呼ばれるように秋まつりに出かけ、そこで老ケヤキ、お囃子、湧くように現れた子どもたちと出会い、一気に「まつり」にのみこまれていったそうです。
「屋台の彫刻全てが土地の木でできているんだと思うと胸が高ぶった。お囃子、太鼓の音、子供達の歓声を聴きながら、御神木の威容に圧倒されながらスケッチし続けた」(栃木子どもの本連絡会『栃木子どもの本連絡会だより』2021年12月10日号)と振り返っています。
明暗がはっきりした色彩で描かれた絵を見ていると、木や葉が風で擦れ合う音、お囃子、人々のかけ声が聞こえてきそうです。
また、彫刻屋台や法被のデザインなどは、実際のものをよく調べて描かれていることもわかります。
いせさんは、『まつり』を描くにあたり、彫り師、塗り師、屋台を支える車師、大工などにも取材をされたそうです。
木とともに生き、まつりを続けてきた鹿沼の人たちへの敬意が伝わってきます。
(写真2)今宮神社への彫刻屋台の繰入れ
よく「この絵本の町は、本当にあるんですよ」と話すと驚かれます。
私自身が、鹿沼を初めて訪れた際に、「木の先生」のようにあちこちを案内してもらい、次々と人を紹介されて、話しかけられる体験をしたことがあります。
みなさんお話が大好きで、「この町の屋台は、黒漆塗なんですよ」とか、「ああ、そのことなら○○さんを紹介してあげるよ」と次の人の所まで連れて行ってくれることも。
私にとって鹿沼は、「人が人を呼ぶ町」です。
(写真3)近世につくられた彫刻屋台の緻密な技法を目の当たりにできる
絵本は子どもから大人まで誰もがわかる言葉と絵でつくる表現です。
いせさんの夫であり、鹿沼市出身のノンフィクション作家の柳田邦男さんは、絵本について次のように語っています。
絵本といえば、昔は絵を付けてわかりやすく伝える幼児向けの本と理解されていました。少年期を過ぎればもうさようなら、という存在でした。
しかし、僕は違うと思います。
現代社会で人びとは、戦争や災害、事故、貧困、病気などさまざまな不条理を伴うなかで暮らしています。そこでどう生きればいいのかを考え、こころを整理するときに絵本はヒントを与えてくれるのです。大人こそ絵本を読もうと訴えたいですね。
(柳田邦男「大人の感性も養う絵本の力」『全国革新懇ニュース』439号、2022年5月)
(写真4)複数の彫刻屋台が交差点でお囃子の競演を行う「ぶっつけ」
2023年は2018年以来、5年ぶりに鹿沼秋まつりが行われる予定です。
絵本『まつり』を読んで、実際に行われている「ちんじゅの森のおまつり」に出かけてみてはいかがでしょうか?
そして鹿沼秋まつりを体験したあとで、もう一度『まつり』を読んでみてください。
きっと脳裏に躍動する鹿沼の人々の姿とお囃子の音がうかんでくることでしょう。
※記事中の写真はすべて筆者撮影
ライター福田 耕